小説

テロリストのパラソル

小説 「テロリストのパラソル」 藤原伊織 著

主人公の島村は全共闘時代の学生運動に参加し、同志である菊地の爆弾製造のとばっちりにあう。
警察から指名手配犯とされた島村だったが、ひょんなことから古いバーを人から任され、それを境に長い年月に身を隠す。
やがてウイスキーを片手に暮らし続けた島村はアル中になり果てた。
ある日、新宿中央公園で爆弾テロに遭遇。事件被害者の中に嘗ての恋人優子が含まれていた。
現場に残された指紋から、島村は再びテロ実行犯として疑われる。
店には優子の娘、塔子や元警察官崩れの浅井がかかわってくる。
どちらも脇役では惜しいキャラクターで、浅井は実際に別作品にも登場し、島村のことを語るという場面があった。
塔子の祖父の政治権力や浅井のヤクザコネクション。
危機を感じた日からホームレスとなり、その仲間から様々な世間の情報を得る手法は面白い。
やがてホームレスたちの情報源と様々な状況下に、島村は事件の真実に向かう。
島村の人としての魅力が作品を大いに引き立て、登場人物たちの魅力が色濃く交錯する。
すべてが全共闘時代に遡り、20年前の優子との別れの真相が菊地と絡んでいたことに気づく島村。
テンポの良い作風というだけでなく、藤原伊織の才能が、作中に描かれた短歌、詩からも豊かな感性と品格を感じる。
作中人物が、重い枷を背負っていながら軽やかに描かれ躍動感いっぱいなのが、読後感を心地よくさせた。   Koune.f

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